〔消費税コラム〕公正な視点

「消費税、下がるかもしれない」その前に知っておきたい3つの視点

はじめに
  このところ、ニュースで「消費税」という言葉を目にしない日はないかもしれません。食料品の消費税率を、2027年4月から2年間限定で1%まで引き
 下げる案をめぐって、与野党の実務者会議で議論が続いており、政府は8月上旬をめどに方針を決定する見通しだと報じられています。所得に応じた
 新しい給付制度とあわせて結論を出す、という報道もあります。

 こうしたニュースに接すると、つい「減税は嬉しい」「いや、財源はどうするのか」といった賛成・反対の議論に目が向きがちです。ただ、今回は少 
 し立ち止まって、消費税という税金そのものが持っている性質について、賛成・反対どちらの立場にも偏らずに、整理してみたいと思います。経営者
 の皆さんにとっては、日々の資金繰りにも直結するテーマですので、そちらにも触れていきます。

視点1:消費税には、消費税にしかない役割がある
  消費税は、所得税や法人税と違って、景気の良し悪しに左右されにくいという特徴を持っています。給料が増えても減っても、私たちは日々の買い
 物を続けますから、税収が比較的安定しやすいのです。

 少子高齢化が進み、社会保障の給付が年々増えていく中で、その財源をどう確保するかは、避けて通れない課題です。所得税や法人税だけに頼ると、 
 現役世代や企業に負担が集中しやすくなりますが、消費税であれば、働く世代だけでなく、年金を受け取る世代や、資産を持つ人にも、消費を通じて
 幅広く負担を分かち合ってもらうことができます。これが、消費税が社会保障の財源として位置づけられてきた大きな理由のひとつです。

視点2:とはいえ、消費税には「逆進性」という弱点もある
  一方で、消費税には昔からずっと指摘されてきた弱点があります。それが「逆進性」です。

 所得が高い人も低い人も、同じ食料品を買えば、同じ税率の消費税を払います。ところが、所得に占める消費税の負担割合で見ると、所得の低い人ほ
 ど重くなる傾向があります。収入のほとんどを生活費に使う人と、収入の一部しか消費に回さず残りを貯蓄や投資に回せる人とでは、「収入に対して
 どれだけ税金を払っているか」という感覚が、大きく変わってくるからです。

 この逆進性への対策として、日本では軽減税率(食料品などの税率を低く抑える仕組み)が導入されていますが、諸外国では「給付付き税額控除」と
 いう仕組みを取り入れている例もあります。これは、消費税は一律に負担してもらいつつ、所得が低い人には別途、現金や税額控除という形で還元す
 ることで、結果的に負担のバランスを取ろうという考え方です。今回の食料品減税をめぐる議論でも、こうした所得に連動した給付制度とセットで検
 討が進められている点は、逆進性対策のひとつの表れと言えそうです。

 「消費税は必要な財源である」という側面と、「消費税には逆進性という弱点がある」という側面は、どちらも事実です。今のニュースを見るとき
 も、税率そのものの上げ下げだけでなく、「逆進性をどう緩和する制度とセットになっているか」という視点を持っておくと、議論の見え方が少し変 
 わってくるように思います。

視点3:経営者にとっての消費税は、「預かったお金」であり「資金繰りの落とし穴」でもある
  ここからは、経営者の皆さんに、ぜひ意識しておいていただきたい話です。

 消費税というと、「お客様から預かった税金を、そのまま国に納めるだけ」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。売上時に受け取った
 消費税相当額から、仕入や経費で自社が支払った消費税を差し引いた残りを納付する、という仕組み自体は、たしかにそのとおりです。

 ただ、少し丁寧に言うと、法律上は「預かり金」とまでは言い切れない、という点は知っておいていただいてもよいかもしれません。実は過去の裁判 
 例では、「消費者が事業者に支払う消費税相当額は、あくまで商品やサービスの対価の一部であって、事業者がそれを過不足なく国に納める法的な義
 務を消費者に対して負っているわけではない」といった判断が示されたことがあります。国税庁なども、こうした背景から「預り金的な性格」とい
 う、少し含みのある言い方をしています。

 小難しい話に聞こえるかもしれませんが、これは経営者にとって、むしろ実務的に大切な意味を持っています。「預かっているだけのお金だから、当
 然どこかに取り分けてあるはず」と考えていると、思わぬところで足元をすくわれかねない、ということです。実際には、消費税相当額を含んだ売上
 代金は、いったん会社の運転資金の中に溶け込んでしまいますので、意識的に取り分けておかない限り、他の支払いに使われてしまいやすいのです。

 しかも、次のような事情が重なると、資金繰りはさらに苦しくなりがちです。

 人件費や社会保険料など、消費税がかからない経費の割合が大きい会社では、利益がトントン、あるいは赤字であっても、消費税だけはしっかり発生 
 してしまうことがあります
 売掛金の入金が遅れていたり、借入金の返済や設備投資に資金を回していたりすると、いざ納税のタイミングになって、手元の資金が足りない、とい
 う事態が起こりえます
 消費税には中間申告・中間納付の制度もあり、年に複数回、まとまった金額の納付が発生することも、資金繰りを圧迫する一因になります
 こうした事情から、消費税の納税資金が足りず、分割納付や納税の猶予制度を利用される会社は、決して少なくありません。「消費税相当額を受け
 取った時点で、それは自由に使えるお金ではない」と意識して、日々の資金繰りとは別の口座で管理しておく、あるいは納税額を月割りで積み立てて
 おく、といった備えが、資金ショートを防ぐひとつの知恵になるのではないかと思います。

おわりに
  消費税をめぐる議論は、今後も税率や制度の見直しを含めて動いていく可能性があります。ただ、どのような結論になるにせよ、「消費税には安定 
 財源としての役割がある」ことと、「逆進性という弱点がある」こと、そして「経営者にとっては資金繰りに直結する現実的な負担である」ことは、 
 どれも変わらない事実として押さえておいていただきたいと思います。

 賛成・反対のどちらかに立つ前に、まずはこうした複数の側面を知っていただくことが、経営者としても、生活者としても、納得のいく判断につなが 
 るのではないでしょうか。

 「うちの会社は消費税の資金繰り対策は大丈夫だろうか」「中間申告の仕組みがよくわからない」といったご相談は、いつでも当事務所にお声がけく 
 ださい。


参考資料

 日本経済新聞(2026年7月)食料品の消費税減税・骨太方針に関する報道
 内閣官房 社会保障国民会議 実務者会議 資料(2026年4月)
 NHK「日曜討論」食料品消費税減税をめぐる各党議論の報道(2026年7月)
 消費税の資金繰り・中間申告制度に関する各種会計事務所の解説記事
 消費税の法的性格をめぐる裁判例(東京地裁平成2年3月26日判決、大阪地裁同年11月26日判決)に関する解説
 ※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断・経営判断については必ず専門家にご相談ください。税率・制度は今後の議論  
 の進展により変更される可能性があります。