「今期も節税できました」その決算書、銀行はどう見ているでしょうか
はじめに
決算が終わって、税理士から「今期はしっかり節税できましたよ」と言われる。経営者にとって、これほど安心できる言葉はないかもしれません。納める税金が少なければ少ないほど、手元にお金が残る気がしますし、「頑張って節税した」という達成感もあると思います。でも、少しだけ立ち止まって考えてみてください。その決算書、もし来月、銀行の担当者が見たとしたら、どんな印象を持つでしょうか。実は、「税金を減らすこと」と「銀行からお金を借りやすくすること」は、方向性がまったく逆を向いていることが少なくありません。
今回は、資金調達という切り口から、経営者として持っておきたい視点について、一緒に考えてみたいと思います。
銀行は、決算書の「どこ」を見ているのか
融資の審査というと、なんとなくブラックボックスのようなイメージを持たれている方も多いかもしれません。実際には、銀行はいくつかの指標を組み合わせて、
かなり機械的に会社を評価しています。中でも特によく見られているのが、次の2つです。
・自己資本比率
会社の総資産のうち、返さなくてよいお金(自己資本)がどれくらいの割合を占めているか、という指標です。目安として、10%を下回ると「要注意」、20〜30%程度あれば「健全」、40%を超えると「優良」といった評価がなされることが多いようです(この基準は金融機関や情報源によって多少の幅があります)。自己資本比率が高い会社ほど、「もしものときにも耐えられる体力がある」とみなされ、金利や融資条件でも有利になりやすい傾向があります。
・債務償還年数
今ある借入金を、会社が生み出す利益で何年かけて返せるのかを示す指標です。単純な利益の額ではなく、「税金を支払った後に会社に残る、実質的なお金の流れ(経常利益に概算の税負担分を差し引いたものと、減価償却費を足し合わせたもの)」を基準に計算するのが一般的で、この年数が10年以内であれば大きな問題はないとされることが多いようです。この数字が長くなればなるほど、「本当に返しきれるのだろうか」と銀行に不安を持たれやすくなります。
どちらの指標にも共通しているのは、「利益をどれだけ積み上げてきたか」が土台になっているという点です。つまり、節税によって利益を圧縮するということは、この2つの指標を、自らの手で押し下げてしまっている可能性がある、ということでもあるのです。
節税と資金調達は、実は綱引きの関係にある
誤解のないように申し上げると、節税そのものが悪いわけではまったくありません。必要な設備投資や、従業員への決算賞与、事業に役立つ広告宣伝費など、将来の成長につながる支出で税負担が下がるのであれば、それはむしろ望ましいことです。
問題は、「税金を減らすこと」自体が目的になってしまい、事業の実態以上に利益を圧縮してしまうケースです。たとえば、
- ・使う予定のない保険に、節税効果だけを理由に加入してしまう
- ・決算間際になって、とりあえず経費になりそうなものを買い込んでしまう
- ・利益が出そうになると、そのたびに大きな支出をして黒字幅を抑え込んでしまう
こうしたことを続けていると、たしかに納税額は減るかもしれませんが、その代わりに、会社の手元資金は減り、利益剰余金(内部留保)は積み上がらず、自己資本比率はじわじわと下がっていきます。銀行から見れば、「毎年しっかり利益を出しているのに、なぜか自己資本が増えていかない会社」という、少し不思議な印象を持たれることにもなりかねません。
節税と資金調達は、いわば綱引きのような関係にあります。片方を強く引っ張りすぎると、もう片方が弱くなってしまう。
大切なのは、その綱引きのバランスを、経営者自身が意識しておくことなのだと思います。
「いくら借りたいか」から逆算して考えてみる
では、どう考えればよいのでしょうか。
ひとつの視点として、「今後、どれくらいの資金を、どんな場面で調達したいか」から逆算して、決算の作り方を考えるという方法があります。
たとえば、数年以内に大きな設備投資を予定していて、その際にまとまった融資を受けたいと考えているとします。その場合は、目先の節税よりも、自己資本比率や債務償還年数といった指標を意識して、あえて利益をしっかり残す決算にしておいたほうが、結果的に有利な条件で資金を調達できることがあります。
逆に、当面は大きな借入の予定がなく、手元資金にも余裕があるという場合であれば、無理のない範囲でしっかり節税していく、という判断もあり得ると思います。
どちらが正解ということではなく、「自社が数年後にどんな資金需要を抱えているか」を見据えた上で、節税の強弱を調整していく。この視点を持っているかどうかで、決算書の作られ方は大きく変わってきます。
決算書は、未来の自分への「手紙」でもある
決算書というと、どうしても「今期の結果をまとめたもの」というイメージが強いかもしれません。けれども、銀行や取引先は、その決算書を通じて「これから先も、この会社と付き合って大丈夫か」を判断しています。そう考えると、決算書は、過去の記録であると同時に、未来の自分に向けた一通の手紙のようなものとも言えるのではないでしょうか。
節税は、経営者にとって大切な選択肢のひとつです。ただし、その選択が、数年後に「あのとき、もう少し利益を残しておけばよかった」という後悔につながることのないよう、資金調達という視点も含めて、少し長い目で決算のバランスを考えていただけたらと思います。
「うちの決算書は、銀行からどう見えているのだろうか」「これから資金調達を考えるなら、今のうちに何を意識しておけばいいのだろうか」——そんな疑問をお持ちでしたら、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。節税のご提案はもちろん、資金調達を見据えた決算戦略についても、一緒に考えさせていただきます。
参考資料
- 融資審査における自己資本比率・債務償還年数の考え方に関する各種専門家コラム
- 過度な節税が銀行評価に与える影響に関する会計・財務コンサルタントの解説記事
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の資金調達・税務判断については必ず専門家にご相談ください。金融機関の審査基準は各行・各支店の運用によって異なる場合があります。
