その物件、「利回り」だけで判断していませんか ― 不動産賃貸業の資金調達で見ておきたい指標たち
はじめに
不動産賃貸業を営んでいらっしゃる経営者の方とお話ししていると、「表面利回り〇%の物件が出た」「この物件、キャッシュフローがいくら残るか」といった会話が、とても自然に交わされています。利回りやキャッシュフローは、たしかにわかりやすく、物件の魅力を測る上で欠かせない指標です。
ただ、金融機関が融資の審査で実際に重視している指標は、経営者の方が普段よく使う指標と、少しだけズレていることがあります。今回は、不動産賃貸業ならではの資金調達の視点として、金融機関が見ている指標と、経営を続けていく上で意識しておきたいポイントを、やわらかくご紹介していきたいと思います。
そもそも不動産賃貸業は、自己資本比率が低くなりやすい
まず知っておいていただきたいのは、不動産賃貸業という業態そのものの特徴です。不動産の取得には多額の資金が必要になるため、物件を担保にした借入によって資金を調達するのが一般的です。そのため、貸借対照表を見ると、総資産は大きいのに、自己資本比率は他の業種と比べて低くなりやすい、という傾向があります。
これは経営が不健全というわけではなく、業態としてはごく自然なことです。ただ、この特徴があるからこそ、自己資本比率という指標「だけ」で会社を評価するのではなく、これから紹介するような、不動産賃貸業ならではの指標もあわせて見ておく必要が出てくるのです。
DSCR ― 「この物件、ちゃんと返せるの?」を数字にする指標
まず押さえておきたいのが、DSCR(デット・サービス・カバレッジ・レシオ、日本語では「借入金償還余裕率」や「元利金返済カバー率」と呼ばれます)です。
計算のしかたはシンプルで、
DSCR = NOI(物件が生み出す純収益) ÷ 年間の借入金返済額(元金+利息)
で求めます。NOIとは、満室想定の家賃収入から、空室・滞納による損失や、管理費・修繕費・固定資産税といった運営費用を差し引いた、物件そのものが生み出す実質的な利益のことです。
DSCRが1.0を下回っていると、その物件の収益だけでは借入の返済をまかないきれず、他のお金で穴埋めしなければならない、という危険な状態を意味します。金融機関の審査では、1.2〜1.3程度以上あることを目安のひとつとしているケースが多いようです(この基準は金融機関の種類や、都市銀行・地方銀行・信用金庫といった業態によっても幅があります)。
ここで注意していただきたいのは、NOIを計算するときに、空室損失を甘く見積もらないことです。「満室であればこれだけ入る」という前提で計算してしまうと、実態よりも良い数字に見えてしまい、いざという時に返済が苦しくなる、ということになりかねません。少し保守的な空室率で試算しておくくらいが、ちょうどよいのかもしれません。
LTV ― 「物件の値段に対して、どれだけ借りているか」を測る指標
もうひとつ、DSCRとセットでよく登場するのが、LTV(ローン・トゥ・バリュー、融資比率)です。
LTV = 借入金残高 ÷ 物件の価値(購入価格または評価額) × 100
で表され、たとえば1億円の物件を、8,000万円の借入で購入した場合、LTVは80%ということになります。LTVが高いほど、少ない自己資金で大きな物件を持てるため、投資効率という意味では魅力的に見えます。けれども、その分だけ「もし物件の価値が下がったら、借入残高の方が物件価値を上回ってしまう(いわゆる『オーバーローン』や『担保割れ』と呼ばれる状態になる)」というリスクも大きくなります。
面白いのは、DSCRとLTVは、いわばシーソーのような関係にあるということです。LTVを高くして自己資金を抑えれば抑えるほど、借入額が増えるため、DSCR(返済の余裕)は低くなりやすくなります。逆に、自己資金を厚めに入れてLTVを低く抑えれば、DSCRには余裕が生まれやすくなります。金融機関は、この2つの指標を組み合わせて、「収益面(DSCR)」と「資産面(LTV)」の両方からバランスを見ているのです。
見落とされがちな「デッドクロス」という落とし穴
不動産賃貸業ならではの注意点として、もうひとつぜひ知っておいていただきたいのが、「デッドクロス」と呼ばれる現象です。
建物には減価償却という仕組みがあり、実際にお金が出ていかないにもかかわらず、帳簿上の経費として利益を圧縮してくれます。一方、借入金の元金返済は、実際にお金は出ていくものの、経費としては計上できません。
この2つの金額の大小関係が入れ替わり、「経費にできない元金返済額」が「経費にできる減価償却費」を上回ってしまう状態のことを、デッドクロスと呼びます。減価償却費の計上が終わるタイミングで起こることが多いのですが、それだけが原因とは限らず、返済が進んで元金部分の割合が増えてくることや、そもそも建物の法定耐用年数(償却期間)がローンの返済期間より短い場合など、いくつかの要因が重なって発生します。
デッドクロスが起こると、「帳簿上の利益は増えて税金の負担は重くなっているのに、手元の資金繰りはむしろ苦しくなる」という状態になります。税引き前のキャッシュフローよりも納めるべき税額の方が大きくなってしまうと、帳簿上は黒字なのに手元資金が足りなくなる、いわゆる「黒字倒産」のリスクも出てきます。物件を長く保有される予定であれば、購入時点から「何年目あたりにこの状態が来そうか」を、あらかじめ試算しておくことをおすすめします。
数字だけでなく、「この先どうしたいか」から逆算する
ここまでDSCRやLTV、デッドクロスといった指標をご紹介してきましたが、これらの数字は、あくまで経営判断のための「材料」であって、正解を教えてくれるものではありません。
・これから物件を増やしていきたいのか、それとも今ある物件を安定的に運用していきたいのか
- ・次の融資に向けて、自己資本比率やDSCRにどれくらいの余力を残しておきたいのか
- ・金利が今より1〜2%上がっても、返済に耐えられる収益構造になっているか
こうした問いを、決算のたびに少しずつ振り返っていただくことが、結果的に「次の物件が欲しくなったときに、金融機関からきちんと評価してもらえる会社」を作っていくことにつながるのではないかと思います。
おわりに
不動産賃貸業の経営は、日々の家賃収入や利回りといった「見えやすい数字」に目が向きがちですが、金融機関から見た評価は、DSCRやLTVといった、少し違う角度の指標で組み立てられています。両方の視点を持っておくことで、次の資金調達の場面でも、落ち着いて交渉に臨めるのではないでしょうか。
「今のポートフォリオのDSCRやLTVがどれくらいか把握できていない」「次の物件購入に向けて、どの程度の自己資金を用意しておくべきか相談したい」といったご相談は、いつでも当事務所にお声がけください。
参考資料
- DSCR(借入金償還余裕率)の計算方法・目安水準に関する不動産金融の解説記事
- LTV(融資比率)とDSCRの関係性に関する不動産投資分析の解説記事
- 不動産賃貸業の財務的特徴(自己資本比率の傾向等)に関する会計専門家の解説
- 減価償却とデッドクロスの関係に関する不動産経営の解説記事
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の資金調達・経営判断については必ず専門家にご相談ください。金融機関の審査基準は各行・各支店の運用や時期によって異なる場合があります。
